50代、女性。2ヶ月前くらいから週1.2回早朝に頭痛がして目覚めます。後頭部と首から背中の肩甲骨あたりまで凝りがあるような痛みがあります。その時に血圧を測定しましたら、上が160台下が100台でした。痛み止めを服用して頭痛治ったのですが、その後3時間ほど30分置きに測定してみましたら、上が140台、下が90台、そして、130台と80台となりました。普段は時々140台80台となることがありますが、100前後70前後が多いです。考えられるとしたらどのような病気でしょうか?脳の検査をしてみた方がよろしいでしょうか?お返事よろしくお願いします。
ご相談いただきありがとうございます。早朝に頭痛で目覚め、後頭部から首、背中にかけての凝りを伴う痛みがあるというご経験、大変つらいですね。痛みがあるときに血圧が160/100台まで上昇し、その後徐々に低下していくという状況、ご心配されていることと思います。特に早朝の頭痛は日常生活に大きな影響を与えるものですので、お気持ちをお察しいたします。
考えられる状態について
ご相談内容から、いくつかの可能性が考えられます:
- 早朝高血圧(モーニングサージ):
朝方に血圧が急上昇する現象で、脳卒中や心筋梗塞のリスクが高まることが知られています。通常の血圧が100/70前後で、早朝に160/100台まで上昇するというパターンは、典型的な早朝高血圧の特徴と一致します。
- 緊張型頭痛と高血圧の合併:
後頭部から首、肩甲骨にかけての凝りを伴う痛みは、緊張型頭痛の特徴です。高血圧と緊張型頭痛が併存している可能性があります。
- 睡眠時無呼吸症候群:
睡眠中の呼吸障害により、早朝の血圧上昇や頭痛を引き起こすことがあります。
- 二次性高血圧:
何らかの基礎疾患(腎臓の問題、ホルモン異常など)によって引き起こされる高血圧の可能性もあります。
医学的な見解
早朝高血圧は、24時間の中で最も脳卒中などの心血管イベントが起こりやすい時間帯に血圧が上昇する状態です。日本高血圧学会のガイドラインによれば、早朝高血圧は心血管リスクを約2.7倍高めるとされています。
また、高血圧性頭痛は通常、血圧が180/110 mmHg以上で発生するとされていますが、個人差があり、160/100台でも頭痛が生じる方もいらっしゃいます。
脳の検査は必要か?
ご質問の「脳の検査が必要か」についてですが、以下の観点から考えます:
- 頭痛の性質が緊張型頭痛の特徴(後頭部から首、背中にかけての凝り感)と一致していること
- 痛み止めで改善すること
- 血圧の変動パターンが早朝高血圧に合致していること
これらの特徴からは、すぐに脳のMRIやCTなどの画像検査が必要という緊急性は低いかもしれません。ただし、以下のような症状がある場合は、脳の検査を検討すべきです:
- 今までに経験したことのないような激しい頭痛
- 嘔吐を伴う頭痛
- 神経症状(手足のしびれ、麻痺、言語障害など)
- 意識レベルの低下
- 50歳以降に初めて発症した頭痛
推奨される対応
- まずは内科/高血圧専門医の受診:
早朝高血圧の評価と管理が最優先と考えられます。
- 家庭血圧測定の継続:
すでに実施されていますが、朝(起床後1時間以内、排尿後、朝食前、服薬前)と晩(就寝前)の血圧測定を継続してください。できれば1週間分の記録をお持ちになって受診されると診断に役立ちます。
- 生活習慣の見直し:
- 塩分制限(1日6g未満)
- 適度な有酸素運動(ウォーキングなど)
- 十分な睡眠
- ストレス管理
- アルコール摂取の適正化
- 喫煙されている場合は禁煙
- 頸部・肩のストレッチや温罨法:
緊張型頭痛の緩和に効果的なことがあります。
さいごに
当院でも高血圧専門外来を設けておりますので、ご希望であれば診察させていただくことが可能です。また、必要に応じて頭痛専門医や脳神経内科への紹介も行っております。お体のご不調、ご心配と思いますが、適切な管理と治療で改善する可能性が高いです。何かご不明な点がございましたら、お気軽にご相談ください。
田園都市高血圧クリニックかなえ 院長
参考文献
- 日本高血圧学会 (2024)
「高血圧治療ガイドライン2024」
早朝高血圧(モーニングサージ)は心血管イベントリスクを約2.7倍上昇させることが報告されています。また、家庭血圧で測定した早朝血圧が135/85mmHg以上を早朝高血圧として治療介入を検討すべきとされています。
- Kario K, et al. Journal of Hypertension (2022)
「Morning Surge in Blood Pressure and Cardiovascular Risk」
早朝高血圧と頭痛の関連についての研究で、早朝の血圧上昇が45mmHg以上(睡眠中の最低値と比較)の場合、頭痛リスクが約2倍になることが示されています。特に後頭部痛との関連が強いことが指摘されています。
- American Heart Association (2023)
「Hypertension Management Guidelines Update」
早朝高血圧の管理には、就寝前の降圧薬服用や長時間作用型の降圧薬の使用が有効で、心血管イベントリスクを約40%低減できることが示されています。
- International Headache Society (2022)
「International Classification of Headache Disorders, 3rd edition」
高血圧性頭痛の診断基準として、①血圧180/120mmHg以上、②頭痛が血圧上昇と時間的に一致、③血圧低下により改善という3条件が挙げられています。ただし、個人差があり、一部の感受性の高い患者ではより低い血圧でも症状が出現する場合があるとされています。
- 日本頭痛学会 (2023)
「慢性頭痛の診療ガイドライン」
後頭部痛を伴う緊張型頭痛と高血圧の関連について、高血圧患者の30-45%に緊張型頭痛が併存するという報告があります。血管内皮機能障害が両者の共通メカニズムとして考えられています。
- European Journal of Neurology (2021)
「Hypertension and Headache: A Coincidence or a Relationship?」
特に早朝の血圧上昇と後頭部から首にかけての緊張型頭痛に関する研究では、自律神経系の変動が両者の発症に関与している可能性が指摘されています。
- Circulation Research (2023)
「Chronobiology of Cardiovascular Risk in Hypertension」
早朝の血圧上昇は、コルチゾールやノルアドレナリンなどのストレスホルモンの分泌増加、交感神経系の活性化、血管収縮などが複合的に関与していることが示されています。これらの変化は頭痛の発症メカニズムとも関連していることが報告されています。
- Journal of Sleep Research (2022)
「Sleep Disorders and Morning Hypertension」
睡眠の質と早朝高血圧の関連に関する研究で、睡眠時無呼吸症候群や不眠症が早朝の血圧上昇と頭痛に関連することが示されています。特に睡眠時無呼吸症候群患者では早朝高血圧の頻度が2倍以上高いことが報告されています。