20代、女性。2年ほど前から時折、動悸を感じます。一度、近くの内科を受診し心電図をしていただきました。そのときの心電図上では脈が168と速いものの異常はなく発作性ではないかと言われ、特に治療もしないまま現在に至ります。なかなか、動悸がでたタイミングで受診することが難しいです。私なりに徹夜をなるべくしないなど工夫をしているのですが、特に平穏な日中でもすごく脈が速くなり動悸を感じるタイミングがあります。一度どこかで精査したいと思い(とは言ってもすぐに時間を見つけにくい)ためご相談させていただきました。
ご相談いただき、ありがとうございます。2年ほど前から時折感じる動悸のご症状、特に平穏な日中でも突然脈が速くなることがあるというお悩み、とても心配されていることと思います。以前に心電図で脈拍168と記録されながらも「異常なし」と言われ、具体的な対処法もなく不安な日々を過ごされているのではないでしょうか。また、症状が出たタイミングでの受診が難しく、お忙しい中で精査の時間を見つけるのも大変だろうと察します。まず、脈拍168という数値は安静時の正常範囲(60〜100程度)を明らかに超えており、何らかの評価が必要な状態だと考えられます。「発作性」という言葉で説明を受けたとのことですが、これはおそらく「発作性頻脈」を意味していると思われます。
考えられる原因について
25歳の女性で発作的に動悸が生じる場合、いくつかの可能性が考えられます:
- 発作性上室性頻拍(PSVT): 心臓の上室(心房)から発生する頻脈で、突然始まり突然終わるのが特徴です。心拍数は通常150〜250/分になります。基本的には命に関わる病気ではありませんが、生活の質に影響します。
- 心房細動: 不規則な心拍リズムを特徴とする状態で、脈が速くなったり遅くなったりします。若年者でも発症することがあります。
- 洞性頻脈: 通常のリズムで心拍数が増加する状態です。ストレス、カフェイン、低血糖、貧血、甲状腺機能亢進症などが原因となることがあります。
- 不安障害やパニック発作: 精神的なストレスが身体症状として現れる場合もあります。動悸だけでなく、発汗や息切れなどを伴うことがあります。
- その他の原因: 血液検査異常、特に甲状腺機能亢進症や貧血は頻脈の原因となることがあります。また、電解質異常(特にカリウムやマグネシウムの低下)、脱水、発熱、薬剤の副作用(β刺激薬、抗ヒスタミン薬など)、アルコール、カフェイン、エナジードリンクなどの摂取も影響することがあります。まれに、褐色細胞腫などのホルモン産生腫瘍が原因となることもあります。
推奨される対応
動悸の原因を特定するためには、発作時の心電図記録が最も重要です。しかし、症状が出たタイミングでの受診が難しいことは理解できます。以下のような対応策が考えられます:
- ホルター心電図検査: 24時間〜数日間、小型の心電計を装着して日常生活中の心電図を連続的に記録する検査です。症状が頻繁に出る場合は、この検査で捉えられる可能性があります。
- イベントレコーダー: ホルター心電図よりも長期間(数週間)装着できる小型の心電計です。症状が出たときにボタンを押して記録する方式のものもあります。
- ウェアラブルデバイス: 最近では、Apple WatchなどのスマートウォッチでもECG(心電図)機能を持つものがあり、症状時に記録できる場合があります。医療機器ではありませんが、参考になることもあります。
- 症状日記: 動悸が起きたときの状況(時間、体位、行動、食事内容、感情状態など)を記録しておくと、診断の手がかりになります。
当院での対応
当院では、このような症状に対して以下のような評価と管理が可能です:
- 詳細な問診と身体診察
- 安静時とタイミングが合えば発作時の12誘導心電図
- ホルター心電図検査の実施
- 必要に応じて血液検査(甲状腺機能、電解質、貧血のチェックなど)
- 心エコー検査による心臓構造の評価
- 必要に応じて循環器専門医への紹介
ご多忙とのことですが、心臓の症状は適切な評価と対応が重要です。「すぐに時間を見つけにくい」とのことですが、可能であれば半日程度の時間を確保して、循環器専門医または内科医の受診をご検討ください。当院でも対応可能ですので、ご希望であればご予約いただければと思います。
動悸発作時には、以下のような応急対応が役立つことがあります
- 深呼吸をして落ち着く
- 冷たい水を飲む
- 顔を冷水で洗う
- 咳をする
これらは迷走神経を刺激し、一部の発作性頻脈を止める効果があることがあります。
働きながらの受診について
お仕事などでお忙しいことと思いますが、健康管理も大切な優先事項です。以下のような方法で時間を確保できないか、ご検討いただければと思います:
- 土曜診療を行っている医療機関を選ぶ(当院も土曜午前、日曜日午前も診療しております)
- 職場の健康診断の機会に相談する
- 平日の遅い時間に診療している医院を探す
- 有給休暇を半日だけ取得する
- 職場の上司や人事担当者に健康上の理由で受診が必要なことを伝える
心臓の症状は突然悪化する可能性もあり、長期間放置することはお勧めできません。ぜひ早めの受診をご検討ください。
さいごに
いずれにしても、脈拍168と記録されている状態は評価が必要です。お忙しいとは思いますが、ご自身の健康のために時間を作られることをお勧めします。
田園都市高血圧クリニックかなえ 院長
参考文献
- 日本循環器学会 (2023)
「頻脈性不整脈の診断・治療ガイドライン」
若年者の発作性頻脈の多くは発作性上室性頻拍(PSVT)であり、適切な診断と治療により90%以上の症例で管理可能とされています。
- European Society of Cardiology (2023)
「Guidelines for the management of supraventricular tachycardia」
発作性上室性頻拍の診断には、症状時の12誘導心電図が最も重要であり、症状が捉えられない場合はホルター心電図またはイベントレコーダーが推奨されています。
- American Heart Association (2022)
「Management of Patients with Supraventricular Tachycardia」
25歳以下で頻脈発作がある場合、構造的心疾患がなければ、予後は一般的に良好であるとされています。ただし、適切な診断と管理が重要です。
- Journal of Arrhythmia (2023)
「Wearable devices for arrhythmia detection: a new era in diagnosis」
スマートウォッチなどのウェアラブルデバイスが不整脈の初期診断に役立つ可能性について言及しており、特に若年層での活用が期待されています。
- Heart Rhythm (2022)
「Vagal maneuvers for termination of paroxysmal supraventricular tachycardia」
迷走神経刺激法(顔面冷水浸水、Valsalva法など)の有効性を検証し、発作性上室性頻拍の約20-50%で効果がある可能性を示しています。
- European Journal of Preventive Cardiology (2023)
「Work-related barriers to healthcare access among young adults with cardiac symptoms」
若年就労者における心臓症状の評価の遅れと、その改善策についての研究。健康を優先する職場文化の重要性が強調されています。